2015年10月28日水曜日

古墳と「土地」


 ≪古墳と「土地」≫
 
 出典:保育社:カラーブックス:
    古墳―石と土の造形―森浩一著:101~102頁

  《古墳を論じる際の「土地」の問題》

  墳墓かの区別をする前に、両者に共通しているのは

  屍を処理している場としての墓であることを忘れてはならない。

  そのことに焦点をあらわすと、

  一人の死者のために必要な土地の平面空間は、

  せいぜい長さ2メートル、幅60センチもあれば充分である。

  縄文の習俗のように屈葬にしたり、6世紀末にあらわれ、

  現在全国でおこなわれている火葬を採用した場合には、

  その土地空間をより狭くすませることは言うまでもない。

  土地の問題は今まで古墳を論じるさいに

  あまり考慮されなかったことであるが、

  全国各地にある数万の小古墳でも直径10メートル前後はあり、

  かなりの面積の土地を死者が占有してしまっているのである。

  しかも地上に歴然とした墳丘を築いているのであるから、

  古墳を破壊しない限り、その土地は永久に墓以外の目的に

  利用することはできないのである。

  直径10メートルでも、現在の一戸の宅地の面積に匹敵するから、

  一人の屍を処理する第一の点は、

  屍処理に必要以上の土地を死者に使わせ、

  しかも永久に占有させている点であろう。

  副葬品の有無は、死者の習俗や古墳文化の内容を示すもので、

  古墳そのものの定義に関係はない。

  古墳を土地との関係で規定すれば、

  最近各地であいついで発掘されている方形周溝墓も

  明らかに古墳である。

  これは一辺が10メートルから15メートルほどの

  方形区画の周囲に狭い溝をめぐらした墓であるが盛土はない。

  弥生文化のものが多いが、古墳時代にもつづいている。

  ただ方形周溝墓だとして学界に報告されているのもののうち、

  墓の決め手のあるものと、

  その証拠のないものは厳密に区別しておく必要がある。

  方形周溝墓のような、無墳丘(無封土)の古墳(仮にA型)、

  大山古墳のように墳丘をもったいわゆる高塚古墳(B型)、

  それに横穴のように平面空間は

  ほとんど占有していないが立体的空間を使っているもの(C型)、

  などを異なった類型として整理しておく必要はある。

  墳墓と古墳を巨視的に区別するために少し煩雑なことを述べたが、

  もちろん、古墳の類型を年代順に、

  あるいは併行関係で整理しておく必要があることは言うまでもない。

  歴史的に重要なことは、私(森浩一)の原則で規定した古墳、

  とくに高塚古墳が数世紀の間だけ築きつづけられ、

  しかもそれがほぼ日本列島全体におこなわれていたことは、

  墓の文化での共通性にとどまらず、

  古墳の構築の前提となる土地の制度の上でも

  一つの「時代」を画していた可能性がつよいといyことである。

  今までは便宜的に使われていた古墳時代という名を、

  改めて検討する時機にきたようである。


0 件のコメント:

コメントを投稿